「データ活用でリハビリテーションを民主化し、誰でもリハビリを実践できる世の中に」——科学的介護の実現に挑む、Rehab for JAPANの新エンジニアチーム
世の中の健康寿命を延伸すること、介護にかかわる人々の負担を軽減すること。SaaSプロダクト「リハプラン」を提供し、これらの課題を解決しようとするRehab for JAPANでは、新たにエンジニアチームを組成し、科学的介護のさらなる発展に挑もうとしています。新チームはどんなビジョンを持ち、どんな取り組みをしていくのか、CEO大久保亮、CTO久良木遼、Healthcare Value Creation部の上田尚学に聞きました。
「データによって要介護者のADL改善の総和を最大化する」データ活用で個々の患者に最適なソリューションを提供
——Rehab for JAPANでは、科学的介護の研究・開発のために新チームを立ち上げました。このチームがどんな目的で誕生したのか、教えてください。
大久保:我々Rehab for JAPANでは、SaaSのプロダクトであるリハプランを起点に、さまざまなデータアセットを蓄積しています。このデータアセットを企業価値に変換したり、優位性をもたらすような活用をしたりする目的で、新チームが誕生しました。
弊社ではエビデンスに基づいた科学的介護を社会実装し、高齢者100万人の健康寿命の延伸に貢献しようとしています。そして、2025年には、介護ヘルスケア領域の高齢者の生活データの捕捉企業としてNo.1になることを目指しています。
この目指す姿と現状のギャップを埋めるための取り組みが、「科学的介護の普及」「高齢者のADL(日常生活動作)維持改善」「デジタルヘルス」の3つです。
この3つの課題を解消するために、「リハプラン」というSaaSを通じて高齢者の方々の生活データを収集し、それを解析するCDP(Care Data Platform)を構築しようとしています。CDPを磨き込んでいくことで、新たなSaaSプロダクトに転換したり、新規事業というかたちでサービスを拡大したりといったことを考えています。
今後、高齢者は確実に増えていきます。これまでは、病院や薬局、介護事業者の方たちが高齢者の方々を支えてきましたが、今後は我々のようなベンダーや、Amazon、Appleなどのビッグテックもヘルスケア領域に参入するようになるでしょう。テクノロジーを持った企業が、社会に対して能力を発揮していくのだと思っています。
——そうした背景がある中で、新チームでは具体的にどんなことに取り組んでいくのでしょうか。
大久保:新チームのミッションとして「データによって要介護者のADL改善の総和を最大化する」を掲げています。そのために、まずはデータを通じて公衆衛生の未知なる可能性を探究し、ソリューションスペースを見つけ出し、「健康寿命の延伸」につなげていきたいと考えています。
いま、人類の寿命は伸びています。背景にはもちろん医療の発展もありますが、根幹には公衆衛生があります。
昔、クリミア戦争の野戦病院で活躍したナイチンゲールという看護師がいますが、彼女の功績はただ献身的な看護をしただけでなく、公衆衛生の概念を広めたことにあります。戦争でたくさんの死亡者が出たときに、データを用いて死亡の原因は公衆衛生にあるということを示しました。それで国を動かして、院内の衛生環境が見直されたのです。
ここで私が言いたいのは、「人が生きる」ということは、あらゆる因子が相互に影響しあって、健康状態を決めているということです。
たとえば、久良木という医師がいて、上田という高齢の患者がいます。上田は肺炎ばかり繰り返してたびたび病院を訪れます。久良木は上田に対して薬を処方するのですが、なかなかよくならない。久良木は「上田はヘビースモーカーなので、そのせいで肺炎がよくならないのではないか」と仮説を立てますが、実は、本当の原因は「家の寒さ」だったんです。
このケースで言うと上田の健康を改善するための本当のソリューションは、「ストーブ」だったことになります。この話からも分かるように、「人が生きる」うえではさまざまな影響因子があるわけです。
こうした因子は、ナイチンゲールのようにデータを用いることで見つけることができます。医療分野だけでなく、人と人とのつながりといった社会科学や、認知心理学など、あらゆる科学とテクノロジーを総動員して健康状態の因子を探す。その結果から、個々にあった改善策を提案することで、健康寿命の延伸につながるのではないかと考えています。
——そんなふうにデータが健康寿命の延伸につながっていくんですね。
もう1つ、将来のことを考えると相互運用性も考えておく必要があります。たとえば、80歳男性が脳梗塞を起こして歩けなくなってしまった。これは言語にするとわかりやすいんですが、海外だと日本語のままでは伝わりませんし、あらゆる解析に耐えうる構造とは言えないでしょう。異なる言語を使う人同士、あるいはデータ解析を行いやすいようなデータの正規化。あらゆることを前提に据えながら私たちは基盤構築を考える必要があります。そのために現時点からわたしたちはWHOが定義したICFコードやICD10コード、ICHIコードなどを用います。
ちなみに、ひとくちに相互運用性やデータ解析といっても、人が生きる行為であるICFだけでも1500個、そこにICD等の病名コードや介入情報としてのICHIなどが含まれることを考え、すべて掛け合わせると天文学的な数字になります。だからこそ私たちはAIや機械学習等のテクノロジーを駆使して、エビデンスに変換したり、高齢者の方々が健康で幸せに長生きするためのソリューションを提供しようとしています。
誰もがリハビリを実践できるよう、データで「リハビリテーションを民主化」したい
——そうした取り組みを、今後どんな方法で実現していこうと考えていますか?
久良木:まずはリハプランに新しい機能を追加するなどブラッシュアップをして、より多くの事業者さんにご利用いただき、高齢者の方々のデータを捕捉していきたいと考えています。
機能の追加という点では、たとえば動画解析が挙げられます。身体機能評価の中に5メートル歩行というものがあります。5メートル歩行では、従来は5メートルを何秒で歩けたか、秒数を計測して身体機能の状態を把握していました。それが動画を分析することで、重心の位置や身体の左右のバランスなど、専門家でなければわからなかったような情報が、介護の現場で日々高齢者の方を支えている介護士や看護師の方々でもわかるようになります。
大久保:ニュアンスでいえば、自動運転の技術に似ていますよね。自動運転は、運転免許を持っていない人でも運転できる技術です。同じように、リハビリの専門職の方の脳内にある暗黙知を、データやテクノロジーを使って形式知にする。そうすることで誰もがリハビリを実践できるようにするんです。
ダイナミックな言い方をすると、「リハビリテーションを民主化する」ですね。現場実装して科学的介護をドライブさせていきたいです。
——研究開発を進めていく中で、現在抱えているデータ領域の課題を教えてください。
上田:データ領域の課題としては、データクレンジングが挙げられます。データを集めるにあたっては、まず介護の仕組みを知らなければ何も始まらないというところもあるので、エンジニアリングだけに特化していてもよくないですね。
久良木:研究するうえで必要なデータとは何かという定義を、データエンジニアだけでは判断できないところがありますよね。
その辺は研究者とすりあわせをしたり、専門職など介護の知識を持っている人を頼ったりして、本当に必要なデータは何か、それがどんなかたちであればいいかをすり合わせて構築していく点が一番の課題だと思っています。
これから入社されるデータエンジニアの方には、そこにおもしろさを感じてもらえるといいですね。単純にデータを集めて格納すればいいんでしょ、という考え方では、バリューが発揮しにくいのではないかと。
研究員の人たちがほしいデータは何かを知って、それがリハプランの中にあるならそれを抽出する。リハプランの外にあるのであれば、そこにいって集めてくる。そんな攻めのデータエンジニアとしての動きが必要となってきそうです。
その点では、データエンジニアの方も自然言語処理などの技術を使うことになるかもしれません。いろいろと、チャレンジングなことができる環境ではありますね。
チームの立ち上げ期だからこそ、裁量とスピード感をもって業務に取り組める
——新チームではどんなカルチャーを形成していきたいと考えていますか?
久良木:リハプランを開発するエンジニアにとって、一番のユーザーは介護事業所の方や高齢者の方々です。
一方で、データエンジニアにとっての一番のユーザーは、社内の研究者やデータサイエンティストです。だからこそ、社内のメンバーに対してもプロダクト思考をもってデータ基盤を作っていく、そうしたカルチャーを醸成していきたいですね。
これは新チームだけでなく、エンジニア組織全体について言えることですが、今後3年間で開発者体験の向上に努めていきます。エンジニアが気持ちよく働ける環境や、安心して開発できるような環境を構築していこうと考えています。
——新チームでの協働について、考えを聞かせてください。
上田:弊社ではまだまだ、研究をするための環境自体が整っていません。リハプランにデータが集まってきていますが、それを解析するための環境を作っていかなければならないと考えています。
現在はそこの整備を私一人で行っているので、今後はデータエンジニアの方に入っていただいて、まずは一緒に環境作りをしていただけたらと思っています。具体的には、リハプランから集めてきたデータをCDPで解析できるよう、研究ができるかたちにデータをまとめあげていただくことを想定しています。
久良木:今上田さんがCDPを構築しているところにデータエンジニアや機械学習エンジニアの方に入っていただいて、上田さんにはよりサイエンス側に集中していただきたいですね。
大久保:上田のように研究者からの出自で、しかもエンジニアリングまでできる人は稀だと思っています。ただすべてを一人でなんでも抱え込んでしまっては、本当の意味でやりたいことができないと思っていますし、どんなに優秀だとしてもベロシティがでない。研究者、データエンジニア、機械学習エンジニア、それぞれがプロフェッショナリズムを持って、お互いに重なる領域を統合して協働することが大切だと思っています。
機械学習やAIの知識をもって社会課題に向き合っていきたいというWill、これまでヘルスケア領域には携わったことはないけれどもデータを活用して社会貢献していきたいというWill。そうしたWillを持った人たちとともに、チームで取り組むことで社会を変えていく。そんな発想を持っていただけたらと思っています。
プロフェッショナリズムを持った人たちが集まってチームを組成し、総和を大きくする。その総和がサイエンスやデータの力を加速させる。それが私の考えるチームのあり方ですね。
——今後、新チームにはどんな方に参画していただきたいですか?
久良木:一番は「健康寿命の延伸」という言葉に惹かれる方にきていただきたいです。もう少し広く、社会課題の解決に携わりたいと思っている方も是非きていただきたいですね。あとは、エンジニア組織はこれから大きくなっていくので、チームビルディングや開発者体験の向上を目指していきたい人にはとてもマッチするかと思います。
上田:高齢者の方を元気にしたいという、Rehab for JAPANの理念に共感できることが大前提だと思っています。システムに近い仕事をしていると、仕事の内容として無機質になりがちです。そうでなく、今何のためにこの業務をしているのか、このデータをどうしたら使いやすいかたちにできるのか、社会実装という目的のために一緒に考えられる方だと嬉しいですね。
また、介護の領域は仕組みが複雑です。データエンジニアリングのプロフェッショナルであればあるほど、仕組みを理解したいと思うようになるでしょう。社内には介護の専門家がたくさんいるので、そうした意味ではキャッチアップがしやすいと思います。
仕組みについて勉強する意欲があって、SaaSに集まるデータをどう活かせばいいか提案をしてくれるような、熱意のある方に入っていただけるといいですね。
大久保:上田が言うように、介護業界のレギュレーションは複雑で、特殊性があります。取っつきにくいように感じられるかもしれませんが、エンジニアとしてデータと真摯に向き合ってきたその姿勢さえあれば、チームで協働してモノを作りあげることができると思います。
上田:私はまったくの分野外から入社しましたが、社内には介護の専門家が多くて、いろんな人に助けてもらえる環境ですよね。Rehab for JAPANではメンバーが会社のビジョンをしっかり理解して、そこにまっすぐ進んでいると感じています。
大久保:これまで大企業で働かれていたデータエンジニアの中には、たとえば大規模プロジェクトで時間がかかってしまったり、取り組んでいる業務が希薄化してしまったりといった経験をしたことがある方もいるでしょう。
新チームはこれから立ち上がります。裏返せば、大きな裁量権を持って仕事ができるということ。立ち上げの過程は大変ですが、CTOの久良木と共に裁量権とスピード感をもって自分が作ったものが社会実装されるという経験が味わえます。
上田や久良木のように、スマートな人間が多いので、コミュニケーションもスムーズです。なぜその業務をするのか、目的を示したうえで進んでいくので、そうした業務の進め方を志向している方にはフィットするのではないかと思っています。