介護現場を理解し現場のロジックを実装する。介護リハビリプログラム自動立案の特許技術の裏側
介護事業所向けリハビリSaaS「リハプラン」を提供するRehab for JAPAN。2020年11月には介護リハビリプログラムを自動立案する機能について、特許を取得しました。この自動立案機能は、主に理学療法士など介護の専門家からなるHVC(ヘルスケア・バリュー・クリエイション)部門と開発部門が連携して開発にあたりました。介護現場のリアルな声をプロダクトに落とし込んでいくプロセスでの試行錯誤とやりがいについて、開発部門の髙橋俊晃(写真・右)とHVCの久保田修(写真・左)に聞きました。
デジタルの力で1人でも多くの人にリハビリを提供したい
——2人のこれまでの経緯と、Rehab for JAPANに入社したきっかけを教えてください。
髙橋:Rehab for JAPANに入社する前は人事給与のパッケージを作る会社で、5〜6年ほどバックエンドエンジニアとして働いていました。3年ほど前にRehab for JAPANの立ち上げに関わっていた人から誘われたことがきっかけで、Rehab for JAPANに参画。当時はまだエンジニアが私を含めて2人で製品もリリースされておらず、何もない状態からのスタートでした。
入社前は介護業界についてあまりイメージができていなかったのですが、実際現場を見てみるとシステム化が進んでいない、非効率な業務があるなどの課題が見えてきました。そこを改善していきたい気持ちは、入社後により強くなっていきましたね。
久保田:私はRehab for JAPANに入るまで、10年ほど理学療法士というリハビリの専門職をしていました。最初は医療の現場で、急性期と呼ばれる手術直後の方であったり、寝たきりの方であったりを対象としたリハビリを担当して、その後、訪問看護や通所のリハビリを通して介護領域について学びました。
代表の大久保とは以前職場が同じで、Rehab for JAPANのプロダクト「リハプラン」を作るタイミングでお手伝いをしたことが入社のきっかけです。
私自身、リハビリの仕事が好きだったのですが、いくらがんばっても1日に診られる人数には限界があります。それが原因で介護現場にリハビリが定着していないことを課題に思っていました。リハプランのようなITツールをうまく使ってリハビリをより多くの方に提供できるのであれば、非常にやりがいがあると考えて入社しました。
——それぞれ、現在どんな業務に携わっているのか教えてください。
髙橋:直近までは、厚生労働省が提供する科学的介護情報システム(LIFE)に関連した開発を行っていました。LIFEは、介護施設側が個別機能訓練などについてシステムに入力して情報を送ると、その情報を厚労省が分析してフィードバックし、現場でのケアの向上につなげるという仕組みです。
LIFEには個別機能訓練加算や科学的介護推進体制加算などさまざまな種類があるのですが、「リハプラン」をそれら1つ1つに対応させて、現場からの情報送信の効率化を図ってきました。
久保田:私が所属するヘルスケア・バリュー・クリエイション(以下、HVC)は、介護の現場でどういう運動をすればいいか、介護リハビリプログラムを自動立案した際に違和感がないかなど、専門家の観点からリハビリの監修をする部署です。
また、介護保険が適用される介護サービスは税金を使って行われるため、厚労省のルールに従って提供する必要があります。介護に関する法律について情報を収集・整理して、コンプライアンスにのっとってシステムが作られるよう開発部門に提供しています。
「個々の状態にあったリハビリを提供したい」介護現場の課題をプロダクトで解決
——Rehab for JAPANでは、2020年11月に介護リハビリプログラムの自動立案の技術について特許を取得しました。これはどんな機能なのでしょうか。
久保田:介護現場のリハビリは、評価項目やリハビリにおける目標の立て方について、厚労省がルールを定めています。
そのルールをもとに評価項目から情報を選定して、どうしたら個々の状態にあったリハビリの目標を立案できるか、ロジックを組み立てています。
この取り組みをしようと考えた一番の理由は、介護現場の職員さんの声でした。
厚労省の統計によると、通所介護の職員さんは看護師や准看護師が約5割を占めています。私たち理学療法士のようにリハビリの専門職であればリハビリプログラムの立案は自分たちで考えられますが、看護師さんは学校でも現場でも、リハビリに関する教育は受けていません。
通所介護の機能訓練でどんなリハビリをすればいいのか、どんな目標を立てたらいいのかは、現場での課題となっていました。そこで、介護リハビリプログラムを自動立案できるようにして、この課題を解決したいと考えたのです。
——自動立案の開発はどのような流れで行われましたか?
久保田:HVCの部署内でも、「リハビリテーション計画書に目標のリストがあっても、選択するときに何を選んだらいいか困るよね」という声が出ていました。それを解決するためにどうしたらいいか現場の方からの声を集めたところ、プログラムの自動提案ができるといいのではないかということになったのです。
弊社には実際に介護に携わった経験のある社員もいるので、現場のお客様の声と、現場経験のある社員と、2つの声をあわせて企画をスタートさせました。2019年10月くらいに企画を練り始めて、髙橋さんが開発をスタートしたのが2020年1月頃でしたね。
髙橋:そうですね。2020年1月から開発が始まって、当初はHVCが考えているロジックを理解することに時間を費やしました。
たとえば、評価項目のどの項目の評価が低いと、その人はどこが悪いのかといった結びつきや、評価の低い部分がたくさんあったとしたらどこからリハビリに着手していくべきなのかといったロジックを理解する。
久保田さんに確認しながら、自分の不明点をなくしていくところから始めていきました。
久保田:評価項目というのは、基本的に大きく3つにわかれています。1つ目は、日常生活動作。たとえば、「立つ」「トイレに1人で行く」など、日常でどんな動きができるかを評価するもの。2つ目は、本人が何をしたいかを図るQOL。散歩や将棋、料理など、もともと趣味でしていたことができているかなどを評価します。3つ目は、握力やバランスの評価などを見る身体機能です。
リハプランでは、その3つを掛け合わせて介護リハビリプログラムの自動立案を行っています。
たとえば、1人でトイレに行きたいけれど、身体のバランスが悪くて行くことができないという評価結果があった場合。トイレに行けるよう身体のバランスをとる練習に加え、トイレでどんな動きができないかを把握してトイレ動作の指導をするという目標を立てていきます。
髙橋:「評価結果がこういう状態であればこういう提案をする」というロジックの部分はHVCが考えて、開発側はHVCが考えたとおりに実装するよう努めました。
久保田:HVCはやりたい欲が強いのですが、開発の専門家ではないので、「こういう条件で提案したいけど情報はどうしたらいいですか?」と髙橋さんに相談しながら決めていきました。
髙橋:私はそれをもとに、リハビリの専門家が考えているロジックを、システムが理解しやすい単位のデータに落とし込んで、そのデータをもとに実際の利用者の状態と比較して開発していきました。
「いかに介護現場にフィットさせるか」HVCのロジックを理解しシステムに落とし込む
髙橋:法律の改定にあわせて保守をしていく必要があるので、リリースして終わりではなくメンテナンスを続けていくことが大切です。先ほど、3つの評価項目を掛け合わせてプログラムを自動提案するという話がありましたが、法律が変わるたびにパターンがどんどん複雑化していくんです。
もう1つ、HVCで考えているロジックと開発で使えるデータの形に乖離があって、開発用にデータの形をフィットさせていくのが大変でした。それもだんだん慣れてきて、今となっては開発に使えるデータをつくるのが得意になりましたが。
久保田:私たちも最初のうちは開発側とコミュニケーションをとるのが難しかったですね。たとえば、リハビリ職同士だと「上腕二頭筋が……」みたいな言葉が当たり前に会話の中に出てくるのですが、開発には開発の言葉がある。そこがかみあわず大変でしたが、お互いに言葉の意味を理解しあって、今ではスムーズにコミュニケーションできるようになりました。
——自動立案のシステムを開発するにあたって、2人はどんな価値観を大切にしていましたか?
久保田:私は2つありました。会社では「自立支援を促進する」を目的に掲げていて、高齢者の方を元気にすることを最終ゴールに置いています。利用者さんの状態にあったものを確実に提案することで、それを実現したいという思いが1つ。
もう1つは、介護現場の業務効率化です。リハビリプログラムが自動立案されても、利用者さんにあった目標でなければ選び直しが発生し、非効率になってしまいます。
利用者さんの状態にあった立案をすること、現場の業務効率化を促進すること。この2つを大切にしていましたね。
髙橋:私はHVCの人たちが考えたとおりにプログラムを立案するよう実装することを一番に考えていました。なるべくHVCの意向に沿えるよう、システム都合で「これは無理です」と言わないようにしていましたね。
評価の結果から「こんな課題がある人にはこういう目標を表示する」といったシステムは、介護の現場を知らなくても作ることができるんです。ですが、今回は現場を知っている久保田さんたちが考えているとおりに実装したかったので、ロジックを理解する努力をしました。
久保田:開発初期の頃に、実現可能に一番近い形でデータを作るにはどうしたらいいか、髙橋さんとすり合わせをしましたね。「提案の文章をこうしたいけど、パターンが多すぎてどうすればいいかわからない」といったときは、髙橋さんに相談して文章を分割してフィットするデータを作り出したり、データの紐づけ方についてアドバイスをもらったり。実際にシステムを作り始めてから、データを手直しする工数を少なくすることができました。
髙橋さんにはHVCの考え方を理解していただいていたので、ベースの理解がスムーズで、コミュニケーションコストが少なく助かっています。
髙橋:開発の際は実際に介護の事業所を訪問したり、久保田さんが作ったロジックでわからないことがあれば確認したり、少しでも差を埋める努力をしましたね。現場にフィットしなければ使ってもらえないので、現場を大事にして作りました。
——今回のこのプロジェクトを通して、 どんなやりがいを感じましたか。
髙橋:介護リハビリプログラムの自動立案は、私が入社したときから課題として認識されていたので、そこを解決できたことにやりがいを感じました。
久保田:このシステムが最終的にお客様にリリースされるタイミングで、「実際に自分たちが作ったものが人に届くんだな」という達成感を感じました。
リハビリ職には「想い」はあっても、自分たちだけではそれを実現できません。それを実践してくれる人と一緒にいると、世の中が変わっていくのだなと感じました。
——リハプランの開発を通じて今後どんなことをしていきたいか、2人の目標を聞かせてください。
久保田:最終目標である「おじいちゃんおばあちゃんを元気にする」というゴールに向かって、どうやったら効率的にできるのか。また実際に元気になっているのかどうか捕捉していかなければいけないので、現場の状態の把握と改善をして、リハプランの価値を高めていきたいですね。
髙橋:これまでは、月1回、数ヶ月に1回といった頻度でしか作らないような書類を作成する機能が多かったのですが、今後は毎日触るシステムを開発したいと思っています。介護の現場の日々の業務量を減らして、業務効率化を進めていきたいですね。
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